東京高等裁判所 昭和60年(行ケ)154号 判決
一 請求の原因一(特許庁における手続の経緯)、二(本願発明の要旨)及び三(審決の理由の要点)の事実は、当事者間に争いがない。
二 そこで、原告主張の審決の取消事由の存否について判断する。
1 成立に争いのない甲第三号証(本件出願公開公報)、第六号証(本件出願の昭和六〇年四月二四日付け手続補正書)によると、
本願発明は、「平版陸屋根材の接続施行が、きわめて簡便に、且強固に接続することができると共に、工事費も従来のものに比し、著しく節減することができる平版陸屋根材の接続方法を得ることを目的としたものである。」(本件出願公開公報の明細書の項の発明の詳細な説明第一頁右下欄第一行ないし第五行、昭和六〇年四月二四日付け手続補正書第二頁の3項)こと、
その要旨とする構成を採用したことにより、
「(1) (中略)係止部(1)がガーター(3)の間隙部(6)内に圧嵌合された瞬間に復元力が働いて開き状態となつて係止部(1)の先端が係止縁(2)の裏面に間隙部(6)の幅員より大となつて引掛り、従つて折返し係止部(1)がガーター(3)の間隙部(6)より離脱したりしない利点と、折返し係止部(1)が圧嵌合された瞬間に復元力が働いて開き状態となるので、薄目の平版陸屋根資材を利用することができ、従つて建設費の著減にもなる等の利点を有している。
(2) 更に上述のような作業工程で平版陸屋根材(イ)を接続できるので、その作業性はきわめて良好であり、従つて工事費をも著しく節減することができる。
(3) 又本発明は、従来の施工方法とは異なつて、平版陸屋根材(イ)(「屋根、床、壁材(イ)」とあるのは「平版陸屋根材(イ)」の誤記と認める。)の表面に直接釘止め工程を一切省略することができたので、釘を打ちつけた下地材の水分の減少によつて生ずる釘の打着による固さが甘くなつて浮き上り、同時に屋根材(イ)をも浮上がらせ、これが原因で屋根材が風圧によつてまくれたり、雨漏れしたりする欠陥を一挙に解消したと共に、本発明の施工によつて、従来なされてきた現場でのはぜ締め作業工程はなくなり、中厚番手の金属をも容易に使用でき従つて作業性がきわめて良好となつた事により、特に屋根材等に使用された場合の効果は顕著なものがある。」(本件出願公開公報の明細書の項の発明の詳細な説明第二頁左下欄第七行ないし右下欄第一三行、昭和五〇年四月二二日付け手続補正書の項第四頁右上欄ないし左下欄の1ないし5項、昭和六〇年四月二四日付け手続補正書第四、五頁の7項、第六頁8項)という作用効果を奏するものであることが認められる。
2 原告は、前者の本願発明と引用例記載のものとの間には、審決が相違点として認定した以外に、前者の本願発明のガーター(3)の断面形状と引用例記載のものの脚部兼用係合部4の断面形状との差異に基づく相違点があると主張する。
まず、審決がした、前者の本願発明と引用例記載のものとの間の相違点の認定の当否を判断するに当たつては、前者の本願発明の要旨においてガーター(3)の断面の各形状が択一的に記載されているので、審決が説示したように、右形状のうち <省略> 形状のものを、引用例記載のものとの対比の対象としてこれを行うこととする。
そこでこの点について判断するに、前掲甲第三号証によると、本件出願の願書に添付した第九実施例の図面である第9図(本判決別紙図面(1)参照)には、前者の本願発明におけるガーター(3)の断面形状が、基底部の左右横方向に直角の突出縁(突出縁の先端部における横方向の各辺と縦方向の辺とが直角を成す。)を有する <省略> の形状のものが記載されていることが認められる。そして、この形状を簡略にして象形化したのが、前者の本願発明の要旨において構成要件とされているガーター(3)の断面の <省略> 形状であるということになる。そして、右断面形状のうち、基底部の左右突出縁を直角のものとし、あるいは左側上端部の折返し縁を直角と鈍角とを有する折曲線とすることには特段の技術的意義があるものとは認められないから、いずれについても当該部分が湾曲のものも含まれるものというべきである。
そうすると、前者の本願発明の要旨で採択されたガーター(3)の断面の <省略> 形状についても、ガーター(3)の基底部の左右横方向に直角の突出縁を有する <省略> 形状が含まれるのはもちろん、簡略にして象形化すると、 <省略> 形状となると認められる次の形状、すなわち、ガーター(3)の基底部の左右横方向に湾曲の突出縁を有する <省略> 形状、及びガーター(3)の基底部の左右横方向に湾曲の突出縁を有し、かつ右側上端部に湾曲折返し縁を有する <省略> 形状も含まれるものと認めるのが相当である(なお、左右逆になつても、反対方向から見ると同一である。)。
他方、原本の存在、成立に争いのない甲第四号証(引用例の基となつた昭和四七年実用新案登録願第一〇〇三八二号の願書(写))によると、引用例の実施例として、第6図(本判決別紙図面(2)参照)に <省略> 形状の脚部兼用係合部4の断面が記載されていることが認められるところ、右にみたところによると、前者の本願発明の構成要件に含まれるガーター(3)の断面の <省略> 形状と、引用例記載のものにおける脚部兼用係合部4の断面の <省略> 形状との間には、格別相違するところがないといわざるを得ない。
なお、本願発明の明細書及び引用例の明細書の項には、前者の本願発明における係合縁(2)の裏面部に当たるガーター(3)の空間部分と、引用例記載のものにおける脚部兼用係合部4の係合部4Bの空間部分のそれぞれの大きさを限定する旨の記載がないことが認められるから、前者の本願発明における右空間部分が、引用例記載のものの右空間部分に比較して、格別に大きいものということはできない。
3 原告は、前者の本願発明と引用例記載のものとの間の相違点、すなわち、折返し係止部(1)(係合部2)の断面形状を、前者の本願発明がレ形状又は類似形状としたのに対して、引用例記載のものでは、U形状としたという相違点についてした審決の判断は誤りであると主張する。
しかしながら、前掲甲第三号証によると、前者の本願発明の第8図、第9図(本判決別紙図面(1)参照)に示された実施例では、折返し係止部(1)の下方先端が断面円弧状となつていることが認められるから、前者の本願発明の折返し係止部(1)の断面形状についての「レ形状又は類似形状」には、下方先端が断面円弧状のものも含まれるものというべきであり、引用例記載のものの係合部2のU形状の断面形状を、前者の本願発明の折返し係止部(1)の断面形状のようにすることは、当業者が容易になし得たことと認めることができる。
したがつて、審決の右判断には誤りはないというべきである。
4 (1) 原告は、前者の本願発明においては、断面形状をレ形状又は類似形状にした折返し係止部(1)は弾力性を有する薄い資材で足り、しかも、その先端部が、ガーター(3)の係合縁(2)の裏面部の接触面において、接触面を限定することなく、かつガーター(3)の間隙部(6)の幅員より大となつて広範囲に引つ掛かるため、外圧、荷重でガーター(3)等が変形しても離脱のおそれがないという格別の作用効果を奏すると主張する。
しかしながら、まず、前掲甲第四号証によると、引用例の明細書の項発明の詳細な説明第二頁第七行ないし第九行に、「第一と第二の実施例はトタン等の鉄板を採用して作つてあり、第三の実施例はアルミニウム板を採用して作つてある。」と記載されていることが認められるところ、トタン板、アルミニウム板は薄く弾力性を有するから、仮に前者の本願発明の折返し係止部(1)が弾力性を有する薄い資材で足りるという作用効果を奏することが自明であるとしても、この作用効果は、引用例記載のものも同様に奏するものというべきである。
また、原告主張の前記作用効果のうち、係合縁(2)の裏面部に接触面を限定することなく引つ掛かるという点は、折返し係止部(1)が接触する係合縁(2)の裏面部が平坦面であるときに奏されるものというべきであるが、前記本願発明の要旨によると、折返し係止部(1)が接触する係合縁(2)の裏面部の形態が、前者の本願発明の構成要件として規定されていないから、右作用効果は、前者の本願発明が奏する作用効果ということはできない。しかも、前掲甲第三号証によると、前者の本願発明における第8図、第9図(本判決別紙図面(1)参照)の実施例(第八実施例、第九実施例)では、折返し係止部(1)の係合縁(2)に対する接触面が限定されていることが認められるから、この点からしても、右作用効果は、前者の本願発明が奏するものということはできない。
さらに、折返し係止部(1)がガーター(3)の間隙部(6)の幅員より大となるということについてみるに、前掲甲第四号証によると、引用例においても、係合部2が、脚部兼用係合部4の係合部4Bの個所における幅員より大となることが第6図(本判決別紙図面(2)参照)に記載されていることが認められるから、右作用効果は、引用例記載のものも均しく奏する作用効果にすぎない。
(2) 原告は、前者の本願発明においては、目地パツキン(5)は雨漏り防止ではなく、折返し係止部を固定させるという作用効果を奏するものであると主張するが、目地パツキン(5)は、前者の本願発明の構成要件に含まれるものではないから、原告主張の右の点は前者の本願発明が奏する作用効果ということはできない。
5 以上判示したところによると、原告主張の審決取消事由はいずれも理由がなく、前者の本願発明は引用例記載のものに基づいて容易に発明をすることができたものであるとした審決の判断は正当である。
三 よつて、審決の違法を理由にその取消しを求める原告の本訴請求は失当としてこれを棄却することとする。
〔編註〕 本願発明の要旨は左のとおりである。
平版陸屋根材(イ)の一側方又は両側方に端縁部を下方に直角状に折下げ、且その折下げた端部を内方に断面形状をレ形状又は類似形状にして折曲した折返し係止部(1)を形成し、当該折返し係止部(1)を一側方にだけ形成したときは、他側方に端縁部を折曲して係合縁(2)を形成し、且該係止部(1)が圧縮して嵌挿可能な間隙部(6)を有する断面が <省略> 形状、 <省略> 形状、 <省略> 形状、 <省略> 形状のガーター(3)を形成し、該ガーター(3)の間隙部(6)内に折返し係止部(1)の復元力を利用して順次嵌め合わせて各平版陸屋根材(イ)を接続し、両側方に端縁部を下方に直角状に折下げ、且その折下げた端部を内方に断面形状をレ形状又は類似形状にして折曲した折返し係止部(1)を形成したときは、別設の両端縁部が対向状態にして、圧縮した上記係止部(1)が嵌挿可能な間隙部(6)を有する断面が <省略> 形状、 <省略> 形状、 <省略> 形状、 <省略> 形状の係合縁(2)付きガーター(3)を熔接又は掛止金具を介して母屋又は梁(4)等に係止させ、上記ガーター(3)の間隙部(6)内に折返し係止部(1)の復元力を利用して順次嵌合接続させることを特徴とした平版陸屋根材の接続方法。